木に惚れるな

初めて原木の仕入れを任された時のことです。先代社長である父が「いいか、仕入れの心得は木に惚れないことだぞ」と教えてくれました。
父が言いたかったのは「木に惚れ」てしまった結果、高く買いすぎてしまったり、売り惜しん で売り時を逸してしまうことがよくある。経営者は冷静に損益を見て仕入れなければいけないと いうことだったのでしょう。
当時は建築が「和から洋」に代わり和室や床の間が日本の住宅から消えていく時代でした。日本中の材木屋の倉庫に「惚れられた」銘木たちが行き場もないまま大量に眠っていたのです。
あれから30年以上が過ぎました。百年木材を仕入れる時、今でもあの時の父の「木に惚れる な」という言葉を思い出します。そしていつも「惚れない」でいることの難しさを感じるのです。 100年以上の時を超えて美しく育った木を前にして冷静に損益を見極めることの難しさ。父に は悪いですが一本一本の木に惚れなければこの商売はできないなと思ってしまうのです。
もしかすると父も同じ思いを持ちながら仕事をしていたのかもしれません 。いや、間違いなく そうでしょう。そうでなければ「木に惚れるな」という格言が生まれるはずがありません。